例えば、いつか、街を歩いているとふと漂ってきた花の香りが、何年も前に訪れた庭園の情景を思い出させたり、香ばしいパンの匂いが子どもの頃の朝食の記憶を呼び覚ましたりすることがあります。
私たちはただ過去を思い出のではなく、その時に感じた感情や、周囲の空気の上に立って思い出すことができます。 まるで時間が巻き戻されたかのように、一瞬で過去の情景が心の中に広がっています。
このように、香りが記憶を呼び覚ます現象は、脳の仕組みによるもので、「プルースト効果」とも呼ばれます。この名前は、フランスの作家マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』に由来します。
物語の中で、主人公が紅茶に浸したマドレーヌの香りをきっこのエピソードは、私たちの日常で経験する「ある香りによって過去の記憶がよみがえる」という現象を象徴的に表しており、それが「プルースト効果」として知られるようになったのです。
嗅覚の信号は、他の感覚とは違う、脳の「大脳辺縁系」という部位に直接届きます。この大脳辺縁系は、私たちの感情や記憶を司る部分であり、その中心には「海馬」と「扁桃体」があります。
そのため、香りが届くと、そこから連鎖的に過去の出来事や、香りとともに感じた感情が蘇ってきます。
「香り」というものは、目に見えず、手で触れることもできません。
しかし、その影響力は計り知れないものがあります。
忘れかけていた記憶の部分が、まるで赤い絵のようによみがえります。
香りの力は、時を越え、私たちを特定の瞬間や感情へと進みます。
自分の嗅覚と記憶の関係を知ると、新しい香りの選び方も変わってくるかも知れません。 お気に入りの香水やアロマ、あるいは日常の中でふと感じる香り、それぞれが織りなす物語もあります。
旅行先に出会った香りを持ち帰ることで、帰宅後にその旅の思い出を追体験することもできるでしょう。
1995 . 5. 20 生まれ
環境デザイン学科プロダクトデザインコースを卒業後、
人材系WEBメディアに就職。
その後、香りのWEBメディアSCENTPEDIAのライターとして活動。
2020年秋、フレグランスブランド「eagg」を始動。