香りを作る、小さな旅

香りを作る、小さな旅

香水を作ることは、まるで小さな旅に出るようなものです。どんな景色を描きたいのか、どんな空気を感じたいのか──香りのひとつひとつが、その道しるべとなります。自分だけの香りを手作りする時間は、少し特別で、とても贅沢なひととき。完成した香水は、記憶や感情を閉じ込めた、自分だけの物語となるのです。

旅の始まり──香りのテーマを決める

まず、香りのテーマを考えましょう。私たちはどんな世界へ足を踏み入れたいのでしょうか?

  • 優雅な花園を散策しているような「フローラル」
  • 静けさと温もりを感じる「ウッディ」
  • 神秘的な異国を思わせる「スパイシー」

この最初の問いは、まるで旅先を地図で指し示すようなワクワク感をもたらします。心の奥に眠る記憶や、憧れの風景を思い浮かべながら、自分だけの旅のテーマを探しましょう。

香りの素材──物語を紡ぐエッセンシャルオイル

テーマが決まったら、それを表現するためのエッセンシャルオイルを選びます。オイルのひとつひとつには、それぞれの物語があります。

  • ベルガモットの爽やかさは、青空の下で感じる新鮮な風。
  • サンダルウッドの深い香りは、静かな森の奥深くへの誘い。
  • シナモンのスパイシーさは、異国の市場を思わせる刺激。

瓶の蓋を開けた瞬間、その香りがもたらす情景に身を委ね、心と響き合うものを選びましょう。

香水の三重奏──トップ・ミドル・ベース

香りを構成するうえで大切なのは、「トップノート」「ミドルノート」「ベースノート」のバランスです。

  1. トップノート(旅の始まり):最初に香る、軽やかで印象的な香り。
  2. ミドルノート(旅のメインストーリー):香水の核となり、香りの個性を形作る部分。
  3. ベースノート(物語の余韻):時間とともに広がり、持続性のある深みを加える。

この三重奏の調和によって、香りに奥行きが生まれます。たとえば、柑橘系の軽やかなトップノートが消えた後、甘い花々のミドルノートが香り立ち、最後にウッディなベースノートがじんわりと肌に残る──そんなストーリーを描くのです。

調香の時間──香りを創る静かなひととき

いよいよ調香を始めます。1滴、また1滴とオイルを垂らしながら、香りのバランスを調整する時間は、まるで絵の具を混ぜてキャンバスに色を重ねるような感覚。

エタノールやキャリアオイルを加えたら、よく混ぜ合わせてなじませます。香りが次第に一体となっていく様子を楽しみながら、心の赴くままに創り上げましょう。

熟成──時間が育む香りの深み

調合したばかりの香水は、まだ全体がまとまっていません。1〜2週間、冷暗所で寝かせることで、香料同士が溶け合い、香りに深みが生まれます。この待つ時間は、完成を楽しみにする喜びのひとつ。時折ボトルを振り、少しずつ変化する香りを確かめながら、その瞬間を待ちます。

旅の終わり、そして新たな始まり

そして、香水が完成したとき──それは、旅のゴールであり、新たな冒険の始まりでもあります。

その香りを纏うたび、どこか懐かしい風景や、まだ見ぬ世界が広がる。香水作りは、単なる「ものづくり」ではなく、自分自身の感性と向き合い、記憶や季節、心の中の風景を形にする旅なのです。

時間をかけて生まれた香りは、きっと特別な意味を持ち、自分を包む優しい魔法となるでしょう。


EAGG producer
中原 綾乃 / NAKAHARA  AYANO
1995 . 5. 20 生まれ

環境デザイン学科プロダクトデザインコースを卒業後、
人材系WEBメディアに就職。
その後、香りのWEBメディアSCENTPEDIAのライターとして活動。
2020年秋、フレグランスブランド「eagg」を始動。
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